5月30日から6月4日までの約一週間にわたり『ショパン・フェスティバル2011 in
表参道』が開催されます。今年は「ショパンとその周辺」と題し、ショパンだけではなく、シューマンやリストなどのショパンと深く関わりがある作曲家たちも取り上げられます。
その幕開けとなる本日は、實川
風(かおる)さんによるランチタイムコンサートが行われました。實川さんは、国内の主要なコンクールの受賞歴を誇り、現在は東京藝術大学4年に在学される傍ら、ソロやオーケストラとの共演など、若手ピアニストとして精力的にご活躍されています。
コンサートは、ショパンの≪ワルツ
変イ長調
Op.42≫をコントロールの行きとどいた繊細な音色で軽やかに演奏され始まりました。
1曲目を弾き終えた實川さんが、今回のプログラムについて「シューマンとリスト〜ショパンから作品を献呈された作曲家たち〜」をテーマに、ショパンが彼らに献呈した作品と、彼らが身近な人たちに献呈した作品で構成されていることをお話し下さり、解説を交えながら進められました。
前半はショパンとシューマンの作品です。まず、シューマンが彼の妻クララに献呈した≪ソナタ第1番
嬰ヘ短調
Op.11≫より第1楽章が演奏されました。この作品は、当時クララの父親に2人の結婚が反対されていたことへの辛い心境などが反映されています。實川さんの演奏では、冒頭での激しい第1主題と穏やかな第2主題が、心が移ろうように織り交ざるさま、中間のめまぐるしく激しい舞曲では、悲痛な気持ちが高揚して行くさまが感じられ、シューマンの心境があまりの悲しさゆえに複雑に変化する様子が鮮明に伝わってくるようでした。
次は、ショパンがシューマンに献呈した≪バラード第2番
ヘ長調Op.38≫です。穏やかなヘ長調の部分では息の長いフレージングで伸びやかに表現されたのに対し、イ短調の部分では嵐が吹きすさぶようにショパンの内面に秘められた激しさを表現され、彼の心の揺れ動くさまが感じられるように、自然な流れで演奏されていました。
後半は、ショパンとリストの作品です。最初は、ショパンの≪練習曲≫よりOp.10-8、Op.10-9、Op.25-1「エオリアンハープ」の3曲が演奏されました。Op.10は、当時ピアニストとして活躍していたリストに、Op.25はリストの2番目の愛人マリー・ダグー夫人に献呈されています。Op.10-8では、左手のメロディをしっかりと歌わせながら、右手のパッセージを自由で軽やかに演奏、Op.10-9では、渦巻くような左手に合わせ、語りかけるように情熱的な演奏を、そしてOp.25-1では、印象派の絵画を思わせるように淡く美しい演奏を聴かせて下さいました。
最後は、リストがダグー夫人との娘コジマに献呈した≪伝説≫より、第2曲「水の上を歩くパウラの聖フランチェスコ」が演奏されました。この作品はリストが僧侶になったときに作曲され、聖人フランチェスコが荒波の上を歩いて渡る様子が描写されていますが、その情景が思い浮かぶような崇高な演奏に聴衆は聴き入っていました。
これらのプログラムを見事に弾ききった實川さんへ盛大な拍手が贈られ、アンコールにショパンの≪ノクターン
遺作
嬰ハ短調≫がしっとりと演奏され締めくくられました。
卓越したテクニックと音楽性で作品と真摯に向き合い、それらの魅力が存分に表現されていた實川さんの演奏は大変素晴しく、充実したコンサートでした。更なるご活躍を期待しています。
(K.S)