6月1日、ショパン・フェスティバルの一環として中桐望さんのランチタイムコンサートが開催されました。第78回日本音楽コンクール第2位など、数ある著名なコンクールで上位入賞を果たされている中桐さんは、東京藝術大学を首席で卒業後、現在は同大学院修士課程に在学する傍ら、精力的にご活躍されています。
今回のプログラムは、中桐さんの「小品ならではの魅力を味わっていただきたい」との思いから『ショパン‐小品の魅力〜名曲を中心に』をテーマに、ショパンの作品の中でも、名曲中の名曲として知られる小品を中心に構成され、解説を交えながら進められていきました。
プログラム前半は、ショパン≪ノクターン≫より、Op.9-1とOp.9-2の2曲で始まりました。いずれも、伴奏が作り出す豊かな響きの上に旋律を息長く伸びやかに演奏され、繊細かつ幻想的な雰囲気が醸し出されていました。
続いては、≪3つのワルツOp.34「華麗なる円舞曲」≫です。例えば、「猫のワルツ」として知られる第3番では、猫が不意に鍵盤の上に飛び乗って走り回ったことからインスピレーションを得て作曲されたことが目に浮かぶような、無邪気で軽やかな演奏をされるなど、3曲とも各曲の持ち味が生かされ、かつショパン特有の息づかいや抒情性が感じられただけでなく、実際にサロンで演奏を聴いているような、親しみやすく洒落た演奏を聴かせて下さいました。
前半最後は、≪スケルツォ第2番
変ロ短調Op.31≫です。ユーモアの中に隠された、ほとばしるような情熱を感じられる、緊迫感のあるダイナミックな演奏をされました。
後半は、『練習曲』と題される作品で構成されていました。まずは、「ロシアのショパン」とも呼ばれるスクリャービンの初期に作曲された≪練習曲
嬰ハ短調
Op.2-1≫です。スクリャービンは特に初期の作品においてショパンの影響を強く受けているとのことですが、抒情的で自然な息づかいによる演奏から、そのことが十分に感じることができました。
最後は、ショパン≪12の練習曲Op.10≫より、第3番「別れの曲」、第5番「黒鍵」、第12番「革命」が3曲続けて演奏されました。「別れの曲」では、遠い祖国を思う郷愁の気持ちがしっとりと表現されており、「黒鍵」では、シャープなタッチで華やかな演奏を、そして「革命」では、ポーランド陥落による失意をストレートに表現したような、胸を打つような強烈な演奏をされ、いずれも、中桐さんの確実なテクニックが冴え渡っただけでなく、それぞれの持つ音楽性が見事に表現されていました。
聴衆の方々から「ブラボー!」の歓声とともに盛大な拍手が贈られ、アンコールにスクリャービン≪左手のための2つの小品Op.9≫より「ノクターン」を伸びやかに演奏され、締めくくられました。
ピアノが持つ多彩な音色を駆使し、味わい深い演奏を聴かせてくださった中桐さんのコンサートは、名曲として知られる小品の新たな魅力に開眼することができた、素晴らしいひとときでした。
(K.S)