ショパン・フェスティバルの一環として催されました今宵のコンサートでは、ショパンの作品に加え、彼の師であるエルスナー、弟子のミクリ、そのまた弟子のローゼンタールやランドフスカ等々の作品も披露され、豪華なプログラムとなりました。
これらのプログラムをこなしたのは、ショパンの故郷ポーランドで研鑽を積み、数々の録音も残していらっしゃいますピアニストの江崎昌子さん。まるで楽譜に書かれた音符1つ1つを磨いてゆくような、丁寧な音楽表現とクリアな音色が魅力です。
どの曲も、江崎さんの丹念な音楽創りが活かされた素晴らしい演奏でしたが、特に感動的だったのは、メランコリックな旋律と独特なリズムで知られるショパンの《マズルカ》第1番、そしてショパン最晩年の作品である《舟歌》でした。心の奥底に訴えかけてくるような《マズルカ》からは、郷愁に浸りながらため息をつくショパンの姿が思い浮かぶようでした(ショパンは若き日にポーランドを出たきり、二度と戻ることが出来ませんでした。)。
《舟歌》は江崎さんご自身の意図で、ショパンの孫弟子ローゼンタールによる《前奏曲》と連続して演奏されました。この《前奏曲》が、雨上がりの虹のような淡い色彩に富んだ演奏だったのに対し、その後の《舟歌》は、まさに雨がすっかり上がって太陽の光が射し込んだかのような、きらびやかなものでした。しかし、華やかな演奏の中でも、江崎さんの音はショパンに特有の哀愁を決して失いませんでした。ご自身のプログラムノートに、この《舟歌》は死を目前にしたショパンの「太陽の光への切なる憧れ」である、とありましたが、今宵の演奏はまさにその言葉を体現していたのではないでしょうか。
アンコールにて、江崎さんは「震災からの復興を願って」という言葉を添えて、シューマンの《トロイメライ》を静かに奏でました。彼女の美しい音色が、今後とも多くの人々の心に明かりを灯すことを望んで止みません。
(A・T)