ショパン・フェスティバル5日目。本日は多くのお客様が集まる中、安部まりあさんのランチタイムコンサートが開催されました。昨年、第8回東京音楽コンクールピアノ部門にて見事1位を獲得されるなど、国内外の著名なコンクールでの受賞歴を誇る安部さんは、上野学園大学演奏家コース卒業後、現在は同大学専攻科に在学される傍ら、ソロやオーケストラとの共演など精力的にご活躍されています。
今回のプログラムは、「ピアノの詩人とピアノの魔術師。同じ時代を生きた天才作曲家の共演。」をテーマに構成されていました。
前半は、ピアノの魔術師リストの作品が並んでいます。最初は、≪コンソレーション第3番
変ニ長調≫です。温かみがあり表情豊かな音色で、穏やかに語りかけるように演奏されました。
続いて演奏されたのは、≪伝説≫より、第1曲「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」です。この作品はリストが僧侶となった頃に作曲され、聖フランチェスコが小鳥に説教をする様子が描かれていますが、愛らしい小鳥のさえずりを思わせる高音の細かい音型や、伸びやかに歌われる旋律などを巧みに弾き分け、曲の情景が見事に描写されていました。
前半最後は、シューマン=リスト≪献呈≫です。シューマンがクララとの結婚前夜に彼女に捧げた歌曲「ミルテの花」の第1曲をリストが編曲したものですが、リストらしい華やかさを兼ね備えつつ、その甘い旋律が情熱的に歌いあげられていました。
後半はピアノの詩人ショパンの作品です。まず、≪練習曲≫よりOp.10-5「黒鍵」とOp.25−9「蝶々」の2曲を演奏されました。「黒鍵」では、しっかりと安定した左手の旋律の上に、右手のパッセージが美しく軽やかに演奏され、「蝶々」では、蝶がひらひらと飛んでいるように愛らしく繊細な演奏をされました。
続いては、≪3つのワルツOp.34「華麗なる円舞曲」≫より、「第2番
イ短調」と「第3番
ヘ長調」です。「第2番」では、物悲しいしっとりとした曲想を、じっくりと味わうように丁寧に表現され、それとは対照的に「第3番」では、軽やかで楽しげな演奏を聴かせて下さり、それぞれの持ち味が十分に生かされていました。
最後は、≪スケルツォ第4番
ホ長調Op.54≫です。さまざまな音色を駆使し、細部にまでコントロールの行きとどいた演奏から、和やかでユーモラスな曲想の中にショパンの内面に潜むほの暗い感情が見え隠れしているような奥深さが感じられました。
盛大な拍手に応え、アンコールにシューマン≪子供の情景Op.15≫より、「トロイメライ」が演奏され、美しく穏やかな響きに包まれながらコンサートが締めくくられました。
安部さんの説得力のある演奏で、同時代に活躍した2人の作曲家の違いが存分に楽しめた素晴らしいコンサートでした。
(K.S.)