6日間にわたって開催されるショパン・フェスティバル2012
in
表参道、初日の夜の部は、ショパンの故郷ポーランドの民俗舞曲でショパンの神髄ともよばれる、「マズルカ」がテーマです。今夜の演奏者は楠原祥子さん。桐朋学園大学を卒業後、ポーランド国立ショパン音楽大学で研鑽をつまれ、特にマズルカやポロネーズなどポーランドの舞曲に造詣の深いピアニストです。この日は、19〜20世紀に活躍したポーランドの4人の作曲家による、合わせて20曲ものマズルカが取り上げられ、まさにマズルカ三昧の一夜となりました。
コンサートのオープニングには、ショパンの同時代人で「ポーランド国民オペラの父」とも呼ばれたというモニュシコの《婚礼のマズール》、ピアニストとしても有名でポーランドの首相も務めたパデレフスキの《マズルカ
作品9−2》が2曲続けて演奏されました。筆者にとってはいずれも初めて耳にする作品でしたが、なじみのあるショパンのマズルカと比較すると似ている部分、異なる部分など様々な発見があり、興味深く拝聴しました。
続いては、日本ショパン協会会長・東京芸術大学名誉教授の小林仁さんをお迎えし、楠原さんとのトークタイムに。ショパンにとってのマズルカの意味合い、ショパン国際ピアノ・コンクールにおけるマズルカ演奏の傾向の変化、ショパンとシマノフスキのマズルカの比較など、様々な角度からマズルカ談義が繰り広げられます。マズルカはショパンの諸作品の中でも民族色が強く、ポーランドの伝統になじみのない外国人にとっては一般にやや壁を感じさせられるジャンルです。けれども、近年では、マズルカのスタイルをきちんと勉強したうえで、より自由なアプローチをする演奏家が増えてきた、とのこと。ポーランド土着の舞踊に起源をもっているとはいえ、ショパンのマズルカは芸術的に洗練された全人類的・世界的な音楽であり、それぞれの演奏家が自分のショパンを弾いていいのだと楠原さんがおっしゃっていたのが印象的でした。
休憩の後はいよいよショパンのマズルカです。マズルカを長年研究されている楠原さんならではの筋の通った演奏で、とりわけ独特のリズム感や間の取り方などは大変説得力のあるものでした。マズルカはショパンの個人的な心情を吐露する場であったのではないか、というお二人のお話を改めて思い起こしながら、様々な心模様を万華鏡のように映し出す16曲のマズルカの世界に浸りました。
演奏会を締めくくるのは、大胆な不協和音が不思議な魅力を醸し出すシマノフスキのマズルカ2曲。聴きごたえあるオール・マズルカ・プログラムを見事弾ききられた楠原さんに、客席からは温かい拍手が送られました。
(N. J.)