5月28日より『ショパン・フェスティバル 2012
in表参道』が始まりました。6日間にわたって開催されるこのイベントは、ショパンと(今年、生誕150周年にあたる)ドビュッシーとの関わりに焦点を置いて企画されました。本日のコンサートのテーマは「ピアノ音楽の2つの絶頂―――ショパンが編み出した奇蹟のピアニズムと、ドビュッシーの斬新な音響語法の共演」で、プログラムにはドビュッシーとショパン、それぞれの珠玉の作品集である《12の練習曲》が選ばれました。プレゼンターはピアニストであり文筆家でもある青柳いづみこさん、演奏してくださったのは岡本愛子さんと津田理子さんです。
はじめに、青柳さんからショパンとドビュッシーについての簡単なレクチャーがありました。そのお話によると、フランスの楽譜出版会社、デュラン社からショパンによる作品の全集が出版される際に、ドビュッシーは校訂者として携わったのだそうです。ショパンのピアノ作品の礎とも言える《12の練習曲》を校訂したドビュッシーは、1915年に自身も《12の練習曲》を作曲しました。この練習曲集には「ショパンを偲んで」という献辞が添えられています。今日は、印象派を先取りするようなショパンの《12の練習曲》(作品25)と、ドビュッシー独特の色彩感が溢れる《12の練習曲》を比較しながらお客様にお楽しみいただけるよう、それぞれ全曲が演奏されました。
前半では、岡本愛子さんがドビュッシーの《12の練習曲》を弾いてくださいました。この練習曲には指使いの記載がなく、ドビュッシーは冒頭に「各自それぞれの指使いを探し求めよ」と書いています。また、晩年の作品とあって、ドビュッシーが追い求めてきた音の響きの集大成がここに詰まっているといっても過言ではありません。このように、技巧的にも音楽的にも高度なテクニックを要する作品ですが、それを聴き手に感じさせることなく、岡本さんは変幻自在な音の響きを巧みに紡ぎだしてくださいました。12曲の中でも、抜群に美しかったのは第11曲「アルペッジョのための」です。青柳さんも「名演だったと思います」と仰っていました。
後半には、津田理子さんがショパンの《12の練習曲》(作品25)を演奏してくださいました。有名な「エオリアン・ハープ」「蝶々」「木枯らし」「大洋」を含む12曲のエチュードは、その響きの優雅さとは裏腹に非常に高度な技巧が求められる作品ですが、これを連続で演奏するという偉業を津田さんは成し遂げられました。とくに第1番の「エオリアン・ハープ」からは、ピアノの詩人と謳われるショパンの言葉なき歌が聴こえてくるような気がして、その音楽世界にただ引き込まれていくばかりでした。全12曲を弾き終わったあと、アンコールとしてショパンの《4つのマズルカ》(作品17の4)を演奏してくださり、『ショパン・フェスティバル』の第二夜が締め括られました。
(A. N.)