ショパン・フェスティバルin
表参道、第3夜は桐朋学園大学名誉教授の徳丸聰子さんによるオール・ショパン・リサイタルです。幅広い世代のお客様で満席となった会場のパウゼは、終始活気のある雰囲気に満ちていました。
午後7時、明るいピンクのストライプのワンピースに身を包んだ徳丸さんが、颯爽とステージに登場。リサイタル前半には、今夜の中心的な曲目であるショパンの《ノクターン》が、年代順に7曲続けて演奏されました。まっさきに耳をひきつけられるのは、徳丸さんの奏でる音そのものの凛とした美しさです。心の襞をひとつひとつ描き出すようにきめ細やかな表情もって歌い上げられるノクターンの叙情的な主旋律、対話するようにときおり絡みあう内声。左手の伴奏音型がそこにしなやかに寄り添い、豊かな陰影を生み出します。優美な音楽のなかでも、時に激しく感情の高まりを見せたり、ふっと翳ったりと豊かな表現の起伏があり、時間のたつのも忘れて聴き入りました。
後半は円熟期のマズルカ2セット(作品50・作品56)と、ショパン晩年の傑作である《ポロネーズ第7番変イ長調「幻想ポロネーズ」》です。マズルカは、ノクターンの時とはうって変わって、きっぱりとしたタッチ、舞曲ならではの生き生きとしたリズムで奏でられました。《幻想ポロネーズ》冒頭の神秘的な分散和音は内側から光を放つような美しさをもち、後のドラマティックな盛り上がりとの対比も見事でした。いずれの作品においても、ロマンティックでありながら決して節度や均衡を失うことのない典雅な表現力に、真のヴェテランの貫禄を感じました。
アンコールにはヘ短調のメランコリックなマズルカを1曲と、楽しい《小犬のワルツ》を。上質な音楽を心から堪能できる、素晴らしい一夜となりました。
(N. J.)