ショパン・フェスティバルの一貫として行われました本日のコンサートでは、ショパンのバラードが中心に採り上げられました。ソリストは現在東京藝術大学の大学院で勉強されています日高志野さん。非常に安定した技術と、シンプルながらも深みのある音楽創りが光る、若手のピアニストです。本日は、ショパンのバラード全曲演奏にドビュッシーの小品も加えた難易度の高いプログラムを、その持ち前の安定感で見事にこなしていらっしゃいました。
いずれのプログラムも、1つ1つの音に繊細に色を塗っていったような、美しい演奏でしたが、とりわけ印象的だったのは、バラードの第4番でしょうか。この曲はピアノ独奏曲としてはとても長く、その中で旋律が次々とアレンジされてゆきますが、根底で曲を支えているのは、主に左手が刻み続ける3拍子のリズムとなっています。日高さんは、つい印象的な旋律に埋もれてしまいがちなこの3拍子を、とても粋に表現することで、曲全体を艶やかにまとめていました。また、曲中のちょっとした間の取り方や音色の変え方もとてもお洒落で、ショパンの魅力を存分に引き出す演奏をしていらっしゃいました。
その前のプログラムであるバラードの第3番も、純潔さと妖艶さを併せ持った素敵な演奏でした。
アンコールにはラフマニノフの≪ヴォカリース≫とショパンの遺作のワルツの2曲が演奏され、会場は大きな拍手に包まれました。充実したプログラムと素晴らしいピアニスト日高さんによる、美しい午後のひと時でした。
(A. T. )