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ショパン・フェスティバル2012 in 表参道
堀江真理子 & 青柳いづみこ レクチャーコンサート 開催レポート
2012年6月1日(金)19:00開演
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
ピアノ:堀江真理子 レクチャー:青柳いづみこ(ピアニスト、文筆家)

   

 ショパン・フェスティバル2012 in 表参道、5日目の夜には、堀江真理子さんのピアノ演奏とピアニスト・文筆家の青柳いづみこさんのお話による、レクチャーコンサートが開催されました。今回は「20世紀に花開いたショパンの遺産」と銘打ち、本年生誕150周年を迎えるドビュッシーとショパンのピアニズムの関係を探ります。

 ドビュッシーが、一説にショパンの弟子とも言われるモーテ・ド・フルールヴィル夫人からピアノの手ほどきを受けたことはよく知られています。ショパンの音楽をこよなく愛した彼は、晩年には自らショパンの《練習曲集》の校訂にも携わるほどでした。

 現代のピアニストにとっても、ショパンはまさに憧れの存在。それぞれの指に固有なタッチの魅力を生かした運指法、左右のペダルを駆使し、絶妙な音響効果をもたらすペダリングなど、ピアニストとしてのショパンが編み出した新しい奏法は、今日まで脈々と受け継がれています。

 しかし、青柳さんによれば、こうした革新的なピアニズムは、ショパンの一種の挫折経験から生まれたものだとのこと。音があまりに小さく繊細すぎると批判され、大ホールで活躍する花形演奏家としての道を諦めざるをえなかったショパンは、上流階級の人々や芸術家の集うサロンに活路を見出し、自らの新たな道を切り開いたのです。大音量で人を圧倒するかわりに、しなやかさと繊細さを徹底的に追求したショパンのピアニズムは、ドビュッシーの作曲技法の中にそのまま引き継がれたといいます。

 お話が一区切りしたところでステージに堀江さんをお招きし、実際の演奏を通してショパンのピアニズムの特徴を確認。《練習曲集 作品25》から、「エオリアン・ハープ」との通称でも知られ、繊細なタッチと長いペダルが絶妙な音響効果を発揮する第1番、両手の旋律がポリリズム的に絡み合う第2番が続けて演奏され、客席の皆様は熱心に耳を傾けていらっしゃいました。

 レクチャーコンサートの後半は、堀江さんによるドビュッシー《前奏曲集第1巻》全曲の演奏です。多彩な個性をもつ12の前奏曲が、堀江さんの迸るような感性と鮮やかなピアニズムによってひとつひとつ命を吹き込まれ、イメージ豊かな音の世界が広がります。なかでも、生き生きとしたタランテラのリズムと音のきらめきが印象深い〈アナカプリの丘〉、すべてをなぎ倒していく暴風のように圧倒的な迫力で演奏された〈西風の見たもの〉、シェークスピアの『真夏の夜の夢』に登場する妖精の軽やかな足取りが目に浮かぶ〈パックの踊り〉は、堀江さんの真骨頂というべきものでした。アンコールには同じくドビュッシーの《版画》より〈雨の庭〉が演奏され、ファンタジーの余韻に浸りました。ドビュッシーを通してショパンの、またショパンを通してドビュッシーの新たな一面を垣間見ることができた、素晴らしいコンサートでした。

(N.J.)

  


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