ショパン・フェスティバル最終公演は、谿博子さんと海老彰子さんによるコンサートです。今回は、『〜ショパンが20世紀にもたらしたもの〜ドビュッシーを手がかりにさぐるショパンのサウンドの秘密』をテーマに、前半が谿さんによるドビュッシー≪前奏曲集
第2集≫、後半が海老さんによるショパン≪前奏曲集≫Op.28という内容で開催されました。
演奏に入る前に、当コンサートのプレゼンターでいらっしゃる青柳いづみこさんが、ドビュッシーの≪前奏曲集
第2集≫について解説して下さいました。この第2集は、例えば2つの異なった調性の和音を同時に鳴らしてできる複調による無調的な響きなど、ショパンの≪前奏曲集≫に影響を受け作曲された第1集に比べ、より抽象性が増しているとのことです。
谿さんによるドビュッシーの演奏が始まりました。この曲集は全12曲からなりますが、それぞれの情景を繊細なタッチによる色彩豊かな音色で表現され、まるで絵画を観ているようでした。第1集よりも無調的で複雑な和声の響きが、幻想的でより臨場感のある雰囲気を出しているのではと思われました。また、≪風変りなラヴィーヌ将軍≫や≪ピックウィック卿をたたえて≫では、皮肉交じりのユーモアが絶妙な間の取り方で巧みに表現され、非常に洒落た演奏でした。
後半は、海老さんによるショパン≪前奏曲集≫です。この曲集は、J.S.バッハの≪平均律クラヴィーア曲集≫に影響を受け、24の調性で作曲されました。技巧的で華やかな曲、嵐のように荒れ狂う曲、甘美な曲など、ショパンの作品に含まれる要素が24曲に凝縮されているようでした。前半のドビュッシーが描写的であったのに対し、作曲者の内面を映しているような表現が印象的でした。調性的でわかりやすい曲想ですが、時おり複雑な和音による洒落た響きが聴こえ、こうした響きが後の無調的な響きの先駆けになったのではないかと感じられました。海老さんは、力強く輝きのあるタッチで、これらの曲を色鮮やかに演奏されていました。
盛大な拍手の後、海老さんより、ご挨拶と先日お亡くなりになられた吉田秀和氏への追悼の言葉が語られました。そして、アンコールのショパン≪前奏曲
嬰ハ短調≫Op.45では、心にしみ入るような演奏を聴かせてくださいました。最後に3人の方々に大きな拍手が贈られ、演奏会が締めくくられました。
「ショパンとドビュッシー」をテーマに様々なコンサートが行われた今年のショパン・フェスティバル。大変面白く充実した6日間でした。来年はどのような視点で開催されるのでしょうか。今から非常に楽しみです。
(K.S)
終演後の懇親会では、皆様和やかにご歓談されていました。