ショパンの「こころ」をテーマに5月27日よりパウゼにて開催されている「ショパン・フィスティバル2013
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表参道」。本日のイブニングコンサートでは国内外での数々の受賞歴を持つ気鋭の若手ピアニスト内匠慧さんをお迎えして、ショパンの抒情的な作品を軸にその「こころ」の内奥の世界が探索されました。
内匠さんが最初に演奏されたのは即興曲です。内匠さんのアプローチの特徴は、外へと向かう華やかさよりも内へと向かう秘私的な抒情性が上品に描き出されている点にあったと言えるでしょう。曲順も内面的な連関への配慮から、3、2、4、1の順で演奏されました。とりわけ4番の所謂「幻想即興曲」へと向かうドラマ性やコミカルに回想するように表現された1番は独創性と説得力を感じさせました。
続いて演奏されたのはグリーグの抒情小品集より「故郷にて」Op.43-3と「夢想」Op.63-5、及びショパンの3つの新しい練習曲です。メロディーラインの物語性を豊かに引き出す両者の巧みさが演出され、いつの間にかグリーグの世界からショパンへと戻ってきたのかというほど自然に作品の精神世界が表現されていました。
そうした内匠さんの手腕は前半の締めくくりとして演奏されたバラード第4番においてもいかんなく発揮され、小品から大きな一まとまりの物語へとショパンが自らの世界をどのように広げていったのかがとても明瞭に伝わってきました。
後半の冒頭に演奏されたのはスクリャービンの左手のための2つの小品Op.9。非常に説得力に富んだ演奏で、ショパンにも共通する感情の微細な揺れ動きが作品のここかしこから聴こえてきます。
さらにショパンの3つのマズルカOp.59では、ショパン特有のほの暗いメランコリーを存分に堪能しました。ショパンのストレートな音楽的メッセージが表出されるマズルカの世界に対する深い理解と尊敬を示す素晴らしい演奏でした。
そして締めくくりはソナタ第2番変ロ短調「葬送」Op.35。視野の広い多角的なアプローチによって小品を軸としてショパンの「こころ」が探求された本日のプログラムのクライマックスにおいてこの大作が演奏されることの意味は大きく、内面的な表現と共にその壮大な演奏効果に圧倒されました。
内匠さんの演奏にはショパンの内面的かつ多面的な「こころ」の世界を描き出すに相応しい繊細で上品なピアニズムと解釈の妙がありましたが、しかし、今夜はこれだけではありませんでした。アンコールで演奏されたのはリャプノフの超絶技巧練習曲よりレズキンカ。ロシアの雄大な自然と共にバラキレフやラフマニノフを連想させる圧倒的なピアニズムに会場も息を飲みました。さらにグリーグの抒情小品集Op.71-4より「森の静けさ」によって今夜のプログラムが回想され、表参道での感慨深い一夜は幕となりました。
(G.T.)