本日は若手ピアニストの佐野主聞さんが、ショパンの後期の作品を中心としたプログラムを演奏されました。プログラムノートも自ら執筆されたという佐野さん、その熱演を聴こうと、たくさんの方が会場に集まりました。
佐野さんご自身もトークやプログラムノートで仰っていた通り、ショパンの作品は、名人芸を誇示したり感情を露呈したりということはないものの、非常に神秘的で美しい音に溢れています。そんなショパンの魅力を、佐野さんはいずれのプログラムでも存分に引き出していらっしゃいましたが、特に印象的だったのはホ長調のノクターンでしたでしょうか。次々とさりげなく表情を変えてゆく空の色のように、音が踊りながらいつの間にかその色彩を変えてゆく様相には、片時も耳を離せませんでした。ゆったりと繰り返されるベース音に対し華やかな装飾が際立つ<子守歌>、歓喜に輝く面と憂いを含んだ面とのコントラストが印象的な<舟歌>につきましても、佐野さんの熱心な研究が感じられるような演奏でした。中盤に登場しました<幻想曲>は今回最も演奏時間の長いプログラムでしたが、和声の色彩感が音の一瞬一瞬の表情によく出た、始めから終わりまで惹きつけられる演奏でした。
そして何と言いましてもこのコンサートで光ったのが、佐野さんのお客様へのサービス精神でした。序盤のトークでは晴れやかな表情で、ショパンの魅力について解説していらっしゃいました。さらに誰もが驚いたのがアンコール!オールショパン・プログラムということで、アンコールもやはりショパンのワルツ……と思いきや、現在活躍中のロシア人ピアニストヴォロドフによる編曲もの(有名な「トルコ行進曲」などが超絶技巧とユニークな和声で編曲されています)を次々と披露されました。佐野さんの演奏・人間性ともに味わうことが出来、会場の皆様も大変満足されたのではないでしょうか。とても楽しいランチタイムでした。
(A. T.)