「ショパン・フェスティバル2014 in
表参道」第2日目のイブニングコンサートは、ドイツを拠点に活躍しているピアニスト、江尻南美さんのリサイタルです。江尻さんのコンクール歴からショパンに着目すると、第13回ショパン国際ピアノ・コンクールで最優秀演奏者賞などを受賞し、チェルニー=ステファンスカ氏よりマズルカ特別賞を授与され、第24回日本ショパン協会賞を受賞したという、ショパンと大変縁の深いピアニストです。
当夜のリサイタル、題して「心の故郷…ショパン」。後半で〈24の前奏曲〉が演奏されるのですが、ショパンの前奏曲と出会って四半世紀という江尻さんの心の中で、ショパンの音楽は限りなく息づき、変化し続けているといいます。今回はどのようなショパンと出会うことができるのでしょうか。
リサイタルの最初は、〈ノクターン〉を2曲。変ホ長調Op.55-2では、弾き始めたその瞬間から、大輪の花がパッと開いたようなあでやかな音楽が表出されました。大らかなフレーズ感、甘く魅惑的な音色。一転してハ短調Op.48-1は、深い決意を秘めた音楽です。少しずつ、少しずつ上り詰め、頂点で華々しい高揚感を謳歌するのですが、それも束の間、寂しい余韻を残して孤独のうちに曲を閉じます。これはもう、一気にショパンの世界です。
そして、ロマン派ソナタの傑作〈ソナタ第2番・変ロ短調〉。〈葬送ソナタ〉ですね。情感あふれる第1楽章は、江尻さんならではの迫力。激しく決然とした音楽と、美しく穏やかな音楽とが、見事な対比を見せた第2楽章。第3楽章の葬送行進曲は圧巻でした。葬列の重苦しい足取り、深い哀しみ、魂の叫びが胸に迫り、中間部の懐かしい思い出を慈しみながら辿るような美しい音楽は、人生の儚さを感じさせました。最終楽章の、怒濤のごとく荒れ狂う一陣の音の群れ。改めて本当にすごい曲です。
後半の〈24の前奏曲Op.28〉。ショパンの音楽のあらゆる要素、多様性が、24曲の中に凝縮しているという傑作です。時に激しく巨大なスケールで、時に華麗に、美しく、切なく、甘く……。江尻さんの渾身の演奏、ショパンに対する深い思い。これだけの激しく繊細な感情の起伏を、超絶技巧で、長時間にわたって表現するというのは、本当にすごいことです。
アンコールは〈マズルカ〉で、内省的な心の綾を感じさせるOp.17-4と、陽気でリズミカルなOp.24-2の2曲。ショパンならではの世界を十二分に堪能して、会場は大きな拍手に包まれました。
(H.A.)