ショパン・フェスティバルもいよいよ後半にさしかかり、本日は若手ピアニストの伏木唯さんが「郷愁」をテーマに、ショパンの祖国の薫り高い作品の数々を演奏してくださいました。東京藝術大学を経て現在ベルリン芸術大学で研鑽を積まれているという伏木さん。彼女の師であるドヴァイヨン教授もまた、ここパウゼでショパンの作品についてのレクチャーを開いていらっしゃいます。
伏木さんの演奏は大変情緒豊かで、1つ1つの音も大変柔和で心地よいものでした。いずれの曲も美しく歌い上げて弾いていらっしゃいましたが、特に印象的だったのは、ワルツの第3番。哀愁漂うメロディーを情感たっぷりに表現し、会場を作品の雰囲気で満たしていらっしゃいました。やはり物悲しいメロディーが特徴的な練習曲の第9番も、とても美しく仕上げていらっしゃいました。
また、ショパンの比較的規模の大きな作品では、重厚な和声の中に神秘的なメロディーが秘められている様相が目立ちますが、伏木さんはこうした内に隠れたメロディーも丁寧にすくい出し、魂を込めて弾いていらっしゃいました。前半のクライマックスとなりましたバラードの第3番は、伏木さんのとても心のこもった美しい演奏に、大きな拍手があがりました。
プログラムの最後に演奏されました、多くのピアニストにとって憧れのレパートリーである幻想ポロネーズは、伏木さんの音色に大変よく合った作品でした。まさに「幻想」というタイトルの通り、伏木さんは持前の表現力で夢幻の世界へと会場を惹きこんでいらっしゃいました。アンコールでは会場の湧き上がる拍手に応え、エチュード「エオリアンハープ」をお披露目。伏木さんの美しい音をまだまだ聴いていたいと思われる、素敵な時間でした。
(A. T.)