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遠藤郁子 トークコンサート 開催レポート
ショパンのこころのうたに耳を澄ませたい・・・

2014年6月6日(金) 19:00開演(18:30開場)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

 

 「ショパン・フェスティバル2014 in 表参道」5日目のイブニングコンサートは、我が国を代表するショパンのスペシャリスト、遠藤郁子さんのトークコンサートです。遠藤さんは、その長きにわたるキャリアの中で、どこまでも深い感動を呼ぶ魂の演奏を、常に私たちに届けてくださっています。最近では、2010年にショパンの全曲演奏を行い、ポーランド文芸大臣よりショパン・ブロンズ像を授与されたのが記憶に新しいところです。

 当夜は、「ショパンのこころのうたに耳を澄ませたい…」というテーマで、貴重なお話を交えながらのコンサート。多くの熱心な聴衆が、会場から溢れるくらいに詰めかけました。

 プログラムは2部構成で、第1部は「秘めたる祈り」。

 遠藤さんは語ります。ショパンの歌心は祈りであり、それがメロディーとなったことで、私たちも聴くことができるのだ、と。

 まず〈前奏曲Op.45〉、ベートーヴェンのソナタ「月光」の第1楽章、〈ノクターン遺作〉という、嬰ハ短調の3曲。慈しみの演奏、一切の無駄をそぎ落とした心のベートーヴェン。ショパンのベートーヴェンへの敬愛の思いが、〈前奏曲Op.45〉を生んだといいます。弾き終わった遠藤さんは、静かな声で付け加えました。共通するのは「葬送」、秘めた祈りであることを。

 続いて、心の扉をそっと開くような、至高の〈練習曲Op.10-3「別れの曲」〉。しっとりとした雨音が心を和らげる〈前奏曲Op.28-15「雨だれ」〉。「雨だれ」は、マヨルカ島に渡り肺結核を悪くしたショパンが、血を吐きながら書いたといいます。

 「雨だれ」と同時期に書かれた〈スケルツォ第3番〉が、コンサート前半最後の曲でした。ジョルジュ・サンドがその時書いていた物語をイメージ源と捉えると、キラキラと高音域から降り注いでくるのは天使の調べで、それを受けるのは低い音域で流れてくる教会の聖歌であるとのこと。初めてその真の姿と出会えたように思いました。遠藤さんの和音の力強い連打は、音が美しく凛としていて、とても素晴らしかったです。

 プログラムの第2部は「切なる祈り」。今度は強い祈りです。

 遠藤さんは語りました。幾度にもわたって周辺の列強国に侵略され、国名まで変わってしまうという悲惨な歴史を繰り返した祖国ポーランド。その祖国に対するショパンの強い祈り――。そして演奏したのが、ショパンが本当に強い気持ちで作曲したという〈練習曲Op.10-12「革命」〉でした。鬼気迫る「革命」。曲最後の和音の強打は、革命に加担してくれなかったフランスへの強い怨みであるといいます。

 続いて演奏されたのが、遠藤さん曰く、ショパンのノクターンの中で一番ドラマティックだというOp.27-1とOp.48-1。鳴り響く進軍ラッパ、ここでもショパンの強い祈りが感じられます。

 激高する〈練習曲Op.25-10〉、勇壮・深遠な〈同Op.25-11「木枯らし」〉、雄大な終曲〈同Op.25-12「大洋」〉。遠藤さんの演奏は、どんなに激しくドラマティックなところでも、メロディーもフレーズも驚くくらい自然で美しい。

 最後の曲は、〈英雄ポロネーズ〉です。輝かしく誇らしい、勇気溢れる英雄。遠藤さん曰く、いつしか英雄が現れて、ポーランドを取り戻す。ポーランドに幸あれ。ショパンの強い祈りだということです。その演奏はポロネーズのリズムが絶妙で、前へ前へと軽やかに前進していく様は、さすが!の一言でした。

 アンコール曲は、〈ノクターンOp.15-2〉。心の底まで染み入る音楽というのは、こういうことをいうのでしょう。両手を高く掲げて拍手するお客様、感極まって立ち上がって拍手するお客様……。感動の中、会場は大きな拍手に包まれました。

(H.A.)

 


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