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レクチャーコンサート 開催レポート 
講師:小林 仁 演奏:森 知英
練習曲はいかにして芸術となったか 〜ショパン以前と以後の練習曲〜
2016年5月23日(月) 19:00開演(18:30開場)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

 

 

 

 ピアノの詩人フレデリック・ショパンに思いを馳せ、その楽曲を中心とした特別なプログラムによるコンサートを連続して開催する6日間──。日本ショパン協会が主催する「ショパン・フェスティバル」が、今年も例年どおり5月の終わりに開催されました。

 今回のテーマは「練習曲(エチュード)」。初日の夜に行われた、講師・小林仁先生(日本ショパン協会会長)、演奏・森知英さんによるレクチャーコンサート「練習曲はいかにして芸術となったか?ショパン以前と以後の練習曲?」は、まさに今回のテーマの象徴となる内容でした。

 西洋音楽の長い歴史の中で、数多存在する練習曲というジャンルの楽曲群。よく知られた曲もあれば、ほとんど知られていない曲もあるのですが、それはショパン以前、ショパン以降で大きく変わっていったといいます。天才ショパンの手により、練習曲は技術面だけでなく、芸術的な内容も備えたものが主流となっていきました。このレクチャーコンサートでは、J.S.バッハから現代の作曲家までの練習曲全14曲でプログラムが組まれ、時系列で練習曲の歴史の流れがとらえられるような内容となっていました。大きなテーマです!!

 以下にプログラムの曲目を記して、印象を書き添えてみました。滅多に演奏されない面白い曲も含まれています。

 まず “ほぼショパン以前”の作品から。J.S.バッハ「4つのデュエットより第3番 ト長調」:練習曲集第3巻に収録。可愛らしく素直なメヌエット風でした。クレメンティ「グラドゥス・アド・パルナッスムより作品44-14 へ長調」:典雅な美しさ。さりげなく難しそう。ツェル ニー「40番練習曲より第27番 変ロ長調」:ピアノ学習の登竜門風。お馴染みの安定感です。

 ここから“ほぼショパンと同時代”です。クラマー「クラマー=ビューロー60の練習曲より第2番 イ短調」:焦燥感。哀しみ。メンデルスゾーン「3つの練習曲作品104より第 1番 変ロ短調」:優美な歌心です。シューマン「パガニーニの奇想曲による練習曲 作品3より 第4番 変ロ長調」:繊細なパッセージが洒落ていました。タールベルク「12の練習曲 作品26より 第1番 嬰ヘ短調」:とても難しそうで素敵な曲。奏者の森さん、 すごいです。ショパン「練習曲集 作品10より 第5番 変ト長調『黒鍵』」:こうして他の作曲家の練習曲と並べて聴いてみると、秀逸さ、芸術性の高さが際立ちますね。

 そして“ショパン以後”。リゲティ「練習曲集 第1巻より 第5番『虹』」:繊細さと白熱した音楽との対比。これが練習曲?といういい曲です。ブルーメンフェルト「左手のための練習曲 変イ長調 作品36」:あたたか な音楽からシリアスな音楽へとドラマティックに変貌。ドビュッシー「12の練習曲より 第1集 第3曲『4度音程のための』」:4度の浮遊する響き、自由で斬新。

 締めに、ショパンとリストによる練習曲の名作から。ショパン「3つの新練習曲より 第1番 へ短調」:もつれあう微妙な心模様が表現されます。ショパン「練習曲集 作品25より 第1番 変イ長調」:エオリアンハープ。古今随一の美しさです。リスト「パガ ニーニによる大練習曲 第3番 嬰ト短調『ラ・カンパネラ』」:技巧的にも芸術的にも、ピアノという楽器の魅力を最大限に引き出した傑作です。

 ショパンの出現を境に、練習曲というジャンルが芸術的な高みへと飛躍していったことが、なるほど、確かに感じ取ることができました。ショパンを中心にピアノ音楽の歴史を掘り下げる。溢れ出る音楽の源泉。興味は尽きません。

(H.A.)


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