『練習曲』をテーマに、連日ユニークな内容の公演が繰り広げられている今年のショパン・フェスティバル。3日目夜の公演は、ピアニスト稲田潤子さんのリサイタルが開催されました。『ショパンの煌めきと憂愁・・・、そして色とりどりのエチュード』と題された魅力的なプログラムで迎えてくださいました。
前半は、ショパンの作品です。最初に演奏された《ノクターン
ハ短調》Op.48-1では、冒頭の溜め息のようなフレーズから次第に想いが募るように曲想が展開され、一気に曲の世界に引き込まれるようでした。
続いて、《練習曲》Op.25から2曲演奏されました。メランコリックな〈第7番嬰ハ短調〉と激しい感情が渦巻くような〈第10番ロ短調〉、いずれもショパンの暗い内面性をそのまま反映したかのような深みのある演奏でした。
そして、《ポロネーズ嬰へ短調》Op.44では、ポーランドの民族舞曲であるポロネーズのリズムがしっかりと活かされた躍動感のある演奏を展開され、祖国に対する憂愁が伝わるようでした。
前半最後は、ワルシャワ陥落の知らせを受けた頃に作曲された《バラード第1番》Op.23です。曲の洗練さを失うことなく、もととなったミツキエヴィチの叙事詩の物語性と当時のショパンの悲痛な感情が重なっているような奥深い演奏に思いました。
練習曲というジャンルを演奏芸術まで高め、後生に多大な影響を与えたショパン。後半は、その影響を受けた作曲家たちによる練習曲が取り上げられました。
初めはドビュッシー《練習曲集》より〈5本の指のための(チェルニー氏による)〉、〈4度のための〉、〈3度のための〉です。いずれも技巧的な難曲ですが、鮮やかなテクニックで安定した演奏を披露されました。また、独特な和声感と響きの陰影が美しく、ドビュッシーならではのエスプリが感じられました。
続いて、ラフマニノフ《絵画的練習曲集》Op.33より4曲演奏されました。澄んだ空気感と鐘のような響きが美しい〈第3番ハ短調〉、迫り来るような〈第6番変ホ短調〉、哀愁の漂う〈第8番ト短調〉、ピアノの鉄骨が唸っているような豪快な音が心地よい〈第9番嬰ハ短調〉。ダイナミックで聴きごたえがありました。
最後は、リャプノフ《超絶技巧練習曲集》Op.11より〈第10番
レズギンカ(バラキレフのスタイルで)〉です。オリエンタルな雰囲気が漂う華やかでキレのある演奏に、「ブラボー」の歓声と共に盛大な拍手が贈られました。
アンコールは、サティ《嫌らしい気取り屋の3つの高雅なワルツ》より〈彼の鼻眼鏡〉、ショパン《4つのマズルカ》Op.24より第2曲と第4曲、《小犬のワルツ》を演奏してくださり、非常に充実したリサイタルとなりました。
(K.S)