「ショパン・フェスティバル2016 in
表参道」4日目の夜は、三浦謙司さんのピアノリサイタルです。題して、〜ショパンとショパンから触発されたエチュードたち〜。プログラムの前半ではバラードを中心に置き、後半ではスケルツォを起点に今年のテーマである練習曲を3曲、そしてラストに、スクリャービン、ラフマニノフ、リストによる、ショパンから触発された練習曲の名作を配しました。ショパンの音楽が源となって、どのような練習曲が生み出されていったのか。興味深いプログラムです。
三浦謙司さんはドイツ、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学に在学中の若きピアニスト。最近でいえば、2015年11月下旬から12月上旬にかけて開催された「第9回浜松国際ピアノコンクール」での奨励賞受賞は記憶に新しいところです。
リサイタル前半、オール・ショパン。
「バラード第1番 ト短調
Op.23」は、驚いたことに奏でられるすべての音が叙情的。まろやかな、優しい歌心を感じました。
続く「3つのノクターン
Op.9」でも、第一に感じるのは上質な音色。胸を焦がすような第1番、ノスタルジックな思いにしみじみとする第2番、装飾音が細やかなレースのように美しい第3番と、とにかく素晴らしかったです。
前半のラストは「バラード第4番 へ短調
Op.52」。一瞬たりとも途絶えることのない歌心にのせて、情熱を込めて奏でられるバラード。クライマックスへと突き進む輝かしい音楽の高揚感に、心を奪われました。
後半の第1曲目は「スケルツォ第2番
変ロ短調
Op.31」。どんなに音量がマックスであっても、音が上質なのに驚きました。
そして続く「練習曲」は、「へ短調
Op.10-9」、「変イ長調 Op.10-10」「ホ短調
Op.25-5」いずれも、ショパンの練習曲が単なる技術の鍛錬だけではない、真の芸術作品であるということを証明する、アイディアに溢れた演奏でした。
最後はショパンに触発され創作された、他の作曲家による練習曲です。スクリャービンの「3つの小品Op.2より第1番
練習曲
嬰ハ短調」の濃密な歌。息を呑んで聴きました。ラフマニノ
フの「絵画的練習曲集Op.39より第5番
変ホ短調」の破滅的なロマンティシズム、巨大なスケール感。
そして最後は、リストの「超絶技巧練習曲」より2曲です。第10番『アパッショナータ』での上質なテクニック、第4番『マゼッパ』の高貴な音楽。ただただ見事でした。
アンコールはラフマニノフの「ヴォカリーズ」。止めどなく湧き出てくる三浦さんの瑞々しい音楽に、聴衆の拍手はいつまでも鳴り止みませんでした。
(H.A.)