ショパン・フェスティバル6日目のランチタイム・コンサートには、弱冠16歳の丸山凪乃さんが登場しました。
まず前半冒頭、事前のプログラムから追加されて、ショパンの《練習曲》作品10-8が演奏され、続けて同じく作品25-6、25-7、カプースチンの《8つの演奏会用エチュード》作品40より第8曲〈フィナーレ〉、シューマン《アベッグ変奏曲》作品1、リスト《パガニーニ大練習曲より》第3曲〈ラ・カンパネラ〉が演奏されました。
ショパンとカプースチンの作品は全て同じ「練習曲」と題されているものですが、それぞれに異なる演奏技法、異なる表現力が求められているものです。丸山さんはこれらの練習曲の技術的要求に完全に答えていました。しかしその一方で、それをあからさまに見せつけたりすることは全くなく、一つ一つの楽曲を芸術作品として、音符一つ一つにニュアンスを付けながらしっかりと表現していることに、深い感銘を受けました。
前半で唯一「練習曲」ではない《アベッグ変奏曲》と、前半最後の〈ラ・カンパネラ〉もやはり、急速なパッセージが多く要求される楽曲ですが、前4曲と同様に、丸山さんの高い技術と表現力が一体となった演奏が、楽曲の深い情感を存分に引き出していました。
後半では《舟歌》、《バラード1番》、《華麗なる円舞曲》作品34-3、《バラード4番》という、ショパンの大曲が続けて演奏されました。
これらの楽曲にも「練習曲」と同様に高い演奏技術が求められますが、あくまで重点しなければならないのは旋律、和声、形式感、テクスチャといった音楽の中の均整の取れた美しさでしょう。丸山さんは高い演奏技法や旋律の部分部分の美しさに溺れることなく、ダイナミックに、かつ繊細に、理性と誠意を持って演奏されていたように感じられます。
アンコールでは、パガニーニの有名な「練習曲」を元にしたファジル・サイの変奏曲、《パガニーニ・ジャズ》の抜粋が演奏され、会場は大喝采に包まれました。
丸山さんは前半6曲と後半4曲を間断なしに演奏する構成をとっていました。大規模な作品も含まれる中、高い集中力と構成力で難曲揃いのプログラムを見事に完成させる力は見事としか言いようがありません。会場も、丸山さんの技術と表現力に、息を呑んで聴き入るお客様が多く見受けられました。「若い」という枕詞を付けるのも既に失礼さを覚えるほどに完成された表現力と実力、今後のさらなる成長が楽しみです。