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北川曉子 ピアノリサイタル 開催レポート
ショパンからバルトークへ
2016年5月28日(土) 17:30開演(17:00開場)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

 

 今年で7年目になる「ショパン・フェスティバル 2016 in 表参道」最終日のイブニングコンサートは、ベテラン・ピアニストの北川曉子さんのリサイタルです。「練習曲」をメイン・テーマにしたこの1週間の「ショパン・フェスティバル」の最後を飾る北川さんは、「ショパンからバルトークへ」と題し、前半にバルトークを、休憩後の後半にショパンを演奏しました。

 最初にバルトーク「15のハンガリー農民歌Sz.71」です。友人であったコダーイ・ゾルタンらとハンガリー王国の各地で民謡を採集して歩いたバルトークは、集めたマジャール民族の音楽を科学的に分析し、ピアノ曲に編曲したり、民謡の要素を基に作品を書いたりしていますが、この「農民歌」もいろいろな民謡の編曲作品です。バルトークの作品独特の土俗的な匂いがする、とても面白い曲でした。

 次は「3つの練習曲 Op.18」です。前曲の「農民歌」と作曲年代はほとんど変わりませんが、作風は全く違い、3曲共前衛的な手法で書かれています。第1曲はいささかおどろおどろしい低音の動きから始まり、次第に激しくなります。第2曲は、逆にまるで水の動きを思わせる高音のきらめくような音から始まる新しい響きの曲です。第3曲は、音の使い方や響きの方向性が興味深く、いずれも技巧的にも高度で、ショパンの練習曲とは全く違う味わいが感じられました。

 前半最後は、バルトーク唯一のピアノ・ソナタです。この曲はそれまでのバルトークのピアノ作品に多かった小品とは違う、打楽器的な手法を取り入れた大規模な構造になっています。

 第1楽章と第3楽章では、民俗的な要素に抽象的な要素を取り込み、躍動するリズムで生命力を感じさせる音楽です。第2楽章は両端の楽章とは対照的に重苦しい葬送的な雰囲気がします。名ピアニストでもあったバルトークが自身のレパートリーのために作曲した楽曲だけに、高度なテクニックが要求されますが、北川さんはバルトーク作品の魅力を見事に伝えていました。

 休憩後はまずショパン「4つのマズルカOp.30」です。第18番ハ短調、第19番ロ短調、第20番変ニ長調、第21番嬰ハ短調の4曲が続けて演奏されました。前半のバルトーク特有の緊張感のある世界とは打って変わって、このフェスティバル本来のショパンの世界をしっとりと聴かせてくれました。

 フェスティバル最後のショパンは、「24の前奏曲Op.28」です。北川さんにとって自家薬籠中のものなのでしょう。ショパンの魅力を充分に引き出して、フェスティバルを締め括りました。

 満員の聴衆からの盛大な拍手に応えて、ショパンを2曲アンコールしましたが、2曲目にはショパンの直筆譜による「幻想即興曲」を演奏しました。よく知られたフォンタナ版のような華やかさはありませんが、非常に味わい深い作品でした。

 このコンサートで今年のショパン・フェスティバルは終了しましたが、今から来年のフェスティバルが楽しみになります。

(K.Y.)

 


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