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橘高 昌男 ピアノリサイタル 開催レポート
〜前奏曲が呼び起こすもの〜
小さくも変幻自在な「前奏曲」というキャンバスに作曲家たちは何を描いたのか。
2018年5月29日(火) 開演18:30 (開場18:00)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

 

 本日はショパン・フェスティバルの一環として、ピアニストとしてまたピアノの指導者としてご活躍中の橘高昌男さんが、リサイタルを開催されました。今年度のショパン・フェスティバルのテーマは「前奏曲」。フェスティバル中のいずれのリサイタルにも、ショパンの前奏曲および様々な作曲家による前奏曲を中心としたプログラムになっています。ショパンの全24曲の前奏曲が、各々短いながらも色彩に富んだものであることは、よく知られていますが、こうしてショパンの前奏曲を他の作曲家のものと比べながら味わえる機会は、そう無いのではないでしょうか。

 東京藝術大学を首席で卒業された後には、フランスで長く研鑽を積まれたという橘高さん。今日のプログラムの中でもとりわけ印象深かったのが、前半の最後に演奏されましたドビュッシー《前奏曲集》からの〈ヒースの茂る荒地〉〈カノープ〉〈花火〉でした。単独で採り上げられることの少ない楽曲も含まれていましたが、橘高さんの演奏はドビュッシー独特の和音や音型をよく捉えたうえでの音楽創りが際立ち、《前奏曲集》の魅力を改めて感じることの出来る演奏でした。また、プログラムの冒頭ではバッハの作品の中でも曲線的な音型の美しさが醍醐味の《パルティータ》から第5番と、メンデルスゾーンの《前奏曲とフーガ》とドイツの古典的な演目を採り上げていらっしゃいましたが、こちらも艶やかながらも奥深さを感じる演奏で、好感を抱けるものでした。

 後半はフェスティバル全体のテーマでもあるショパンの《前奏曲》を中心に、ショパンの名曲を並べたプログラム。橘高さんは《前奏曲》のうち、有名な第8番を含む第7〜12番の計6曲を選んでいらっしゃいましたが、いずれの曲も楽曲の性格や和声感をよく捉えて演奏されていました。そして特に素晴らしかったのが、その次に演奏された《即興曲》変ト長調。緩やかな音楽の流れの中で和声が移ろいゆく、とても繊細な作品ですが、橘高さんの演奏は柔らかさの中にも1つ1つの響きに煌きを感じるもので、大変美しかったです。最後は《幻想ポロネーズ》と《スケルッツォ》第2番という大曲2つで華やかに演奏を締めくくり、会場は大きな拍手に包まれました。

 アンコールはドビュッシーの《前奏曲集氈tから〈亜麻色の髪の乙女〉にフォーレの《即興》と、近代フランスの色気を感じさせる演目でお開きとなりました。最後まで橘高さんの繊細かつ華のある音色を楽しめた、充実の時間でした。

(A.T.)

 

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