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寺田 悦子 ピアノリサイタル 開催レポート
「24の前奏曲」に於ける調の秘密 〜バッハから生まれたショパンの独創性〜
2018年6月2日(土) 開演17:00 (開場16:30)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

 

 6日間にわたって『前奏曲』をテーマに開催された「ショパン・フェスティバル2018in 表参道」も、ついに最終日。最後を飾ったのは、わが国を代表するベテラン・ピアニストの一人、寺田悦子さんのイブニングコンサートです。

 ショパンを軸に、ラフマニノフやスクリャービン、ドビュッシーなど様々な前奏曲の名作が演奏され、多角度から聴き比べを楽しむことができた6日間でしたが、最後を締めるのはバッハ。ショパンは『24の前奏曲 Op.28』を、バッハの『平均律クラヴィーア曲集』に影響を受けて作曲したと言われますが、今宵はそのバッハとショパンの前奏曲を、調ごとに交互に弾くという、滅多に聴くことができない意欲的なプログラムが組まれました。

 各々の調ごとに湧き上がる、二人の天才作曲家の無限大のインスピレーション。それを並べて聴くというのは、聴衆としてはワクワクしますが、奏者にとってはかなりハードであったと思います。バッハの前奏曲を弾いたら、そのままバッハのフーガへと自然に進みたくなるところを、一気に時を超えてショパンの前奏曲へ没入。そのままショパンの世界に留まって、ショパンの次の前奏曲を弾きたいところを、原点のバッハへと戻る。

 寺田さんは、弾いているうちに次第にイメージができあがっていったとお話しされていましたが、確かに調ごとの色彩、キャラクターの魅力が、バッハから、そしてショパンから、前奏曲を通してはっきりとしたメッセージとなって伝わってくる、そんな感じがしました。

 最初の曲目はショパンのノクターンより、物悲しいOp.15-1、リラックスした心持ちのOp.15-2で、美しい音色が会場を優しく満たします。

 引き続き、バッハの『平均律クラヴィーア曲集第1・2巻』の前奏曲と、ショパンの『24の前奏曲 Op.28』より第13〜24番の共演が始まりました。 

 以下に、個人的に感じたイメージを調性ごとに記してみます。

●嬰ヘ長調
[バッハ:平均律第1巻第13番][ショパン:第13番]
幸福感、豊かな心、温もり。バッハとショパンに共通した思い。

●変ホ短調
[バッハ:平均律第1巻第8番][ショパン:第14番]
真剣な告白。悔恨。バッハとショパンそれぞれの思いが炸裂。

●嬰ハ長調・変ニ長調
[バッハ:平均律第1巻第3番][ショパン:第15番『雨だれ』]
バッハでは軽やかさ、大らかさ。ショパンでは繊細で柔らかな雨だれに。

●変ロ短調
[バッハ:平均律第1巻第22番][ショパン:第16番]
バッハでは不安と決意、ショパンでは心の激しいせめぎ合いと強い心。

●変イ長調
[バッハ:平均律第1巻第17番][ショパン:第17番]
バッハでは地に足の着いた安心感、ショパンでは温かく包み込む懐の大きさ。

・・・・中略・・・・

●ト短調
[バッハ:平均律第2巻第16番][ショパン:第22番]
バッハで感じた静かな闘志が、ショパンでは運命にあらがう強い心に。

●へ長調
[バッハ:平均律第2巻第11番][ショパン:第23番]
両者に共通する柔らかさ。バッハでは慈愛、ショパンでは希望。

●ニ短調
[バッハ:平均律第1巻第6番][ショパン:第24番]
バッハでは強い決意、ショパンでは命懸けの闘い。

 バッハを敬愛したショパン。こうして交互に聴いていくと、時を越えて、バッハとショパンの音楽が呼応しているように感じました。それぞれの調性のキャラクターの魅力が、とても深く、際立って聞こえました。

 ショパンを深く知る、もっと好きになる「ショパン・フェスティバ in 表参道」。来年の開催が今から待ち遠しいです。

(H.A.)

 

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