今回の演奏会で使用された楽器は、ショパンの存命中に作られた1843年製のプレイエルでした。会場は満員で、ショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位を獲得した川口成彦さんへの期待を感じさせました。
前半はオール・ショパンのプログラムで構成されました。まずは《ポロネーズ
変ロ長調
op.71-2》です。ピリオド楽器が現代の観客の心に届くための入念な演奏法の研究が結実し、川口さんの作り上げる音色にはどこか懐かしさを覚えました。《2つのワルツ
op.69》では、ヨーロッパのサロンで音楽に浸っているかのような伸びやかな心地になりました。《ボレロ
ハ長調
op.19》では速いパッセージがきらびやかに織り込まれ、《前奏曲
嬰ハ短調
op.45》では和音が朗々と鳴り響き、ショパンの器楽曲の魅力が存分に引き出されました。《バラード
第3番 変イ長調
op.47》は、決して誇張せずにプレイエルの特性を生かした表現で作曲者の心の深奥に触れた演奏が実現しました。
後半は、瀧廉太郎《2つのピアノ小品「メヌエット」「憾」》の演奏で始まりました。作曲者の繊細な機微を見事に表現し、川口さんが解釈なさった「死を目前にした若者の過去へのノスタルジア」という作品像が彫琢されました。日本とポーランドの絆が意識されるようにポーランドの作曲家クルピンスキ《ポロネーズ
ニ短調》が続いて演奏され、その精妙で透明感溢れる音色に包まれました。最後に、ショパン《ピアノソナタ
第2番 変ロ短調
op.35「葬送」》が演奏されました。「自分のためではなく誰かのために弾く」という川口さんの熱く強い想いが詰まった激情的な音色はダイナミックに観客へと働きかけました。
アンコールにはショパン《ノクターン
変ホ長調
op.9-2》が切なくも美しく演奏され、当時の楽器を用いることで音楽の真髄に迫る意義深い時間を過ごしました。
(M.S)
to top > 川口 成彦
ピアノリサイタル