「日本ショパンピアノコンクール2015」第1次予選1日目の後半、午後2時過ぎから6時過ぎまで。それが今回、私が受け持たせていただいた時間帯でした。聴いたのは12人の若きピアニストによる、ショパンのエチュード(課題曲から選択した2曲)、そしてバラードやスケルツォ、舟歌や幻想曲といった楽曲(1曲を選択)の演奏でした。
まず、全体的なレベルの高さに、大変驚かされました。あの息詰まるような緊張感、シーンと静まり返った静寂の中での、勇気ある素晴らしいパフォーマンス。よく弾き込まれたテクニック。興味深い個性が随所に感じられ、ショパンの楽曲に対するほとばしる熱い思いが溢れ出ていました。ここまでの準備を積み重ねるには、想像を超える苦労や、数々の試行錯誤があったに違いない、と感じました。
ここで少し、会場の雰囲気について。第1次予選の会場となった洗足学園音楽大学の前田講堂ですが、とても趣がある落ち着いた空間です。歴史を感じさせる古い造作で、授業もできるように机が据え付けられた客席でした。客席とステージの周囲をぐるりと取り囲む薄いグレー色の木の壁に、簡素な装飾が施され、品格のあるしつらえとなっていました。
照明を落としたほの暗い客席スペースに相対して、ステージの上は明るく照らし出され、グランドピアノの黒の輝きが美しく映えていました。この空間で響くショパンの調べは神秘的で、とても美しかったです。
演奏の方に話を戻しましょう。私が聴いた12人は、以下の皆さんです。
大伏啓太さん 大橋大河さん 奥谷 翔さん 佐原 光さん
佐藤元洋さん 渋谷藍香さん 下田絵梨花さん 鈴木菜穂さん
鯛中卓也さん 高松佑介さん 田中理恵さん 田中珠名さん
第1次予選にエントリーしているのは全部で50人。その内の12人だけでこの充実振りですから、本選の6人に残るというのは本当に狭き門です。
ここで強調したいのですが、もし第1次予選から先に進めなかったとしても、どうか前を見て、誇りを持ってそれぞれの音楽の道を更に精進して歩んで行ってください、と申し上げておきたいです。それだけ演奏の随所に、ワクワクしたもの、思わぬ閃きを感じたもの、感動をおぼえたもの……があったからです。
これだけたくさんの優れた若手が日本に育っていることに気付かせてくれた、第1次予選でした。
(H.A.)