本日はショパン・フェスティバル2017の一環として、ショパンのワルツに焦点を当てたレクチャーコンサートが開催されました。講師はこのパウゼでも度々レクチャーやコンサートをされている、ピアニストの青柳いづみこ先生。そして数々のワルツやマズルカの演奏を担当されたのは、ワルシャワへの留学経験があり先日ワルツのCDも出された福原祥子さん。2人のスペシャリストを迎えた贅沢なレクチャーコンサートに、平日にも関わらずたくさんの方が集まりました。
ワルツの起源は、英国女王エリザベス1世も好んで踊ったと伝えられるヴォルタなどの宮廷舞踊に、ドイツの農民が踊ったと伝えられるレントラーなどの庶民的な舞踊が混じったものであり、1770年頃にはスタイルが出来上がっていたようです。前者はくるくると旋回する急速な踊り、対して後者は重めの靴でアクセントを効かせた踊りだったため、ワルツも軽やかながらしっかりとリズムを刻んだ踊りの音楽となりました。レクチャーの最初の部分では、ショパンがワルシャワ滞在時の比較的初期に創ったワルツと、同じくショパンの名作と呼ばれるマズルカが並べられ、リズムや音楽の流れの特徴についてのお話がありました。
ショパンは一時期ウィーンにも渡りますが、19世紀初期のウィーンはウィンナー・ワルツが人気を博した時代で、残念ながらショパンは日の目を見ることがありませんでした。序奏に5つもの小さなワルツと盛大なコーダのついたウィンナー・ワルツに対して、ショパンは否定的なコメントを残していますが、しかしながら有名な『華麗なる大円舞曲』をはじめとするショパンのワルツを聴くと、彩鮮やかに幾つもの小さなワルツが次から次へと現れ、実はウィンナー・ワルツの影響を多大に受けていたのではと考えられます。
後半は音楽史的にも最も知られている、パリ滞在時のショパンのワルツが次々と紹介されました。いずれも名作ばかりではありますが、とりわけOp.
42の変ホ長調のワルツは、左手は3拍子・右手は2拍子という技巧的なワルツに、華々しい重音が印象的なワルツが組み合わせられ、非常に手の込んだものとなっています。こうした例からもショパンのワルツはもはや「踊るため」の実用音楽というよりむしろ、芸術作品として遺すためのものであったと言えるでしょう。一方で興味深いのは、ショパンは即興演奏の名手だったと伝えられており、弟子や孫弟子がショパンのワルツのパラフレーズを残していることです。おそらくショパンも実際にワルツを奏でていたときには、楽譜をもとに毎回違う演奏を披露しており、そのことは私達に、彼の楽譜から彼の楽譜には無い音楽の何を感じ取るべきなのかを、考えさせることとなっています。
楠原さんのワルツの演奏は、華やかな音色の中にも明確で堅固な音楽創りへの意志が見え、非常に感慨深いものでした。とりわけ品格ある表現を要求されるイ短調や嬰ハ短調のワルツは、見事な演奏でした。レクチャーコンサートの最後には、楠原さんと青柳先生のベルリオーズ《幻想交響曲》第2楽章(交響曲にワルツが採り入れられた最初の例だと言われています)の連弾もあり、大変充実した一夜でした。
(A.T.)