「ワルツ」をテーマに開催された今年の「ショパン・フェスティバル」も、ついに最終日の6日目となりました。フィナーレを飾るのは、日本を代表するピアニストの一人である、花房晴美さんのリサイタルです。
前半はこれまでのフェスティバルの余韻をかみしめるように、ショパンの魅力をふんだんに盛り込んだオール・ショパン・プログラム。後半は、共通テーマ「ワルツ」の締めにふさわしく、時代と世界の垣根を越えて幅広くピックアップした舞曲の数々、そしてラストはショパンに回帰してワルツ3曲が演奏されました。
最初の曲は「子守歌 変ニ長調
Op.57」。癒しに満ちた儚げな音楽をベースに、細やかな装飾音符が自由に戯れます。続いて「幻想即興曲
嬰ハ短調 Op.66」。華麗なルバートはまさに即興曲
で、ペダリングが個性的でした。
「ノクターン 嬰ハ短調
遺作」は、感情の起伏がそのまま音やメロディーに転化したかのよう。孤独、さすらい、決意、優しさ…。
「ノクターン 変ホ長調
Op.9-2」は、ショパンの代名詞ともいえるような有名曲。優美で繊細、美しいメロディーラインとそれを支える伴奏部の陰影。緊張感。やはり永遠の名曲ですね。
前半のラストは、「スケルツォ第1番
ロ短調
Op.20」。くっきりとした輪郭、メリハリの効いた演奏が流石でした。
後半は、ショパン以外の様々な舞曲をめぐります。ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、慎ましく厳かな調べ。神聖な雰囲気。サティ「幻想・ワルツ
変ニ長調」は大人の気まぐれなワルツ。ワイ
ンが似合いますね。サティ2曲目は「グノシェンヌ第4番」。いにしえから聞こえてくる声と言いましょうか、不思議な力に惹き込まれます。
マスネ「2つの小品 1.黒い蝶
2.白い蝶」は、ひらひらどこへ向かおうとしているのか方向の読めない黒い蝶の舞いと、のんびりしていたと思ったらアッという間にどこかへと飛んでいってしまった白い蝶の舞い。予想できないパッセージの軌道は、蝶の飛び方そのもの。
ストラヴィンスキー「タンゴ」は骨太なタンゴで、不協和音がスパイシー。ドビュッシー「レントよりおそく」は古いフランス映画のようにロマンティックで、切ないワルツ。ファリャ「ワルツ・カプリッチョ」は、ワルツのあらゆる楽しさ、喜びが、ギュッと凝縮されたかのよう。以上、個性的な舞曲の数々でした。
そして、フェスティバルの最後に、懐かしのショパンへと戻ります。軽やかで優美な「ワルツ
変ニ長調 Op.64-1『小犬』」、憧れと哀愁が交叉する「ワルツ
嬰ハ短調 Op.64-2」、張りつめた緊張感と圧倒的な迫力「ワルツ
ホ短調
遺作」。様々な舞曲を聴いたあとに、こうしてショパンのワルツを聴くと、唯一無二、その独自性、素晴らしさに改めて驚きます。やはりすごいです。
アンコールはシューマン「トロイメライ」とドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」で、安らぎのエンディングとなりました。
(H.A.)