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アルトゥル・シュクレネル 
(ショパン・インスティテュート所長)
レクチャー 開催レポート
ショパン‐その人となり、ポーランド的?世界的?
2019年6月1日(土) 開演17:00 (開場16:30)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

 

 今年で開催10年目を迎える「ショパン・フェスティバル2019 in 表参道」の最終日、特別ゲストとして来日されたショパン・インスティテュート所長アルトゥル・シュクレネル氏によるレクチャー「ショパン――その個性とポーランド的性格と普遍性と」が行われました。個性的であり、ポーランド的であり、また普遍的でもあると評されるショパンの音楽はどのような環境によって生み出されていったのか、その「ショパンらしさ」の根源にある様々な要素について、音源や画像も用いながら詳しくお話いただきました。

 ショパンの生まれ育った家庭と当時のワルシャワの文化的水準がいかに高いものであったかということや、彼の受けた音楽教育についてなど、興味深いテーマで講演は進められました。なかでも印象的だったのは、10代のショパンはポーランドのほぼ全土に点在する知人士族たちの領主屋敷を訪ねて旅をするなかで、各地方独特のフォークロアに触れることができたというエピソードです。ショパンは農村に滞在し、彼らの文化を注意深く観察しただけでなく、農民たちの音楽や踊り、遊びにも積極的に参加していたといいます。ここで彼が士族と農民という2つの文化集団に直接的に触れる機会を得ていたことが重要だ、とシュクレネル氏は語っておられました。

 また、ショパンの音楽様式についても、「書法」や「内容」、「ベル・カント」といった項目に分けて解説がありました。ショパンのポリフォニックな書法は、当時としてはユニークなものであったものの、それは彼の教育体験のなかに深く根ざしたものです。というのも、大学でショパンはユゼフ・エルスネルのもと週に5時間も対位法を学んでいました。このエルスネルの作品や理論書には、「民族の枠を越えた普遍的な要素」(音楽の形式、ジャンル、情動に関する学問など)と「民族的な要素」(ポーランド語の韻律に関する著作など)」の両方が含まれており、彼の教育もまた、ショパンの作曲の才能の開花にとって大きな役割を果たしたようです。

 「生まれはワルシャワ人、その心はポーランド人、その才能によって世界市民となったフレデリク・ショパンがこの世を去った」――ショパンに対して贈られたこの弔辞の意味が、今回のレクチャーを通してこれまで以上に説得力のあるものとして感じられるようになったように思います。

(Y. T.)

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