「第4回
日本ショパンピアノコンクール2019」の本選が、去る12月7日土曜日13時より、東京・渋谷区文化総合センター大和田
さくらホールにおいて開催され、6人の若きファイナリストが、それぞれの思いの丈を込めた、渾身のショパンを演奏しました。
このコンクールは、ワルシャワで5年に1度開催される「ショパン国際ピアノ・コンクール」の前年に開催されるもので、今回で4回目を迎えました。課題曲はワルシャワに準拠しており、優勝したピアニストは、次年のワルシャワでのコンクールに向けて、様々な支援を受けることができます。
世界が注目する「ショパン国際ピアノ・コンクール」の舞台に立つことは、ピアノに人生をかけようと決心した若きピアニストにとって、幾度となく胸に去来する、夢の世界です。とはいえ、悲しいことに、想像を絶する狭き門であることに違いはありません。そんな厳しい現実は承知の上で、できることなら本格的なコンクールで、自分の信じるショパンを思い切り演奏してみたい。どこまで通用するのかを試してみたい。「日本ショパンピアノコンクール」は、挑戦する心に応えてくれるコンクールでもあると思います。
本選の前に、カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」で行われた、予選について振り返ってみましょう。
第1次予選は12月2日・3日の2日間。課題曲は、事前に提示されたエチュード14曲から選択した2曲と、バラード・舟歌・幻想曲・スケルツォから1曲を選択します。エントリーしたピアニストは39人で、内3人が棄権。年齢層としては1987年生まれから2003年生まれ。ここで10人に絞られます。
第2次予選は12月5日。課題曲は、事前に提示されたノクターン・エチュード・ワルツ・ポロネーズから3曲と、任意の1曲で、合計30?40分の演奏時間。本選に進めるのは6人のみです。
こうして、いよいよ本選へ。会場の渋谷区文化総合センター大和田さくらホールは、落ち着いたダークブラウンの木を基調とした定員735人を収容する大ホールで、見えない緊張の糸がピーンと張り詰めているように感じました。課題曲は、マズルカの作品番号1シリーズ(例:Op.33-1,
2, 3,
4)と、ソナタ第2番・第3番・プレリュードOp.28のいずれか1作品です。6人のファイナリストの演奏に、会場を埋めた多くの聴衆が、固唾を飲んで耳を傾けました。
演奏の終了。休憩を挟んで、審査結果は次のように決まりました。それぞれに、本稿記者の感想を添えます。
〔第1位〕伊藤順一さん(1991年生・リヨン国立高等音楽院)……マズルカOp.17とソナタ第3番。類まれな柔らかい音楽力。
感動で胸がいっぱいに。
〔第2位〕鶴澤 奏さん(1994年生・バンクーバー音楽院)……マズルカOp.17とソナタ第2番。音楽に豊かな物語。
随所に細やかな工夫。
〔第3位〕五十嵐薫子さん(1994年生・桐朋学園大学大学院)……マズルカOp.50とソナタ第3番。上質なテクニック。
抜群のバランス感覚。
〔入選〕黒岩航紀さん(1992年生・東京藝術大学大学院)……マズルカOp.59とソナタ第2番。美しく整った音楽。
さわやかな印象。
〔入選〕三好朝香さん(1994年生・東京藝術大学大学院)……マズルカOp.50とソナタ第3番。明るくクリアな音質。
思いを込めた演奏。
〔入選〕樋口一朗さん(1996年生・桐朋学園大学大学院)……マズルカOp.59とソナタ第2番。柔らかな温もりのある音楽。
ドラマティック。
〔奨励賞〕樋口一朗さん
表彰式では、各賞の発表、賞状・賞金・トロフィーの授与など一連のセレモニーが執り行われたあと、審査員長で日本ショパン協会会長の小林 仁先生が、次のように話されました。
「第3回以来5年経って、レヴェルが格段に上がっていて、誰を落として誰を入れるか苦渋の決断でした。」
審査員の海老彰子先生は、次のように講評されました。
「1次からファイナルまで名演がいっぱいありました。……継続というものが大切で、これから皆さん各々が目指すアーティストになっていくことを期待したいと思います。」
なお審査員は、小林 仁(委員長)、植田克己、海老彰子、青柳いづみこ、江崎昌子、岡本美智子、加藤一郎、楊 麗貞、ケヴィン・ケナーの諸先生が務められました。
表彰式が終わっても、会場の興奮はなかなか冷めやらず、互いの健闘を讃え合っていました。第1次予選・第2次予選・本選と、懸命に研鑽を積み、挑戦したピアニストの一人ひとりの個性、それぞれのショパンに、心からの敬意を表してこの稿を終えたいと思います。
(H.A.)
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来賓、審査員、ファイナリスト
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