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中桐 望 ピアノリサイタル 開催レポート
華やかさと憂いの狭間で 〜ワルツが描く恋物語〜
2017年5月25日(木) 19:00開演(18:30開場)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

 

 2017年度のここパウゼでのショパン・フェスティバルは、ワルツがテーマとなっています。本日はこれまで数々の国際コンクールで秀でた成績をおさめ、ワルシャワへの留学経験も持つ若手ピアニスト中桐望さんによる、ショパンとその後活躍した作曲家達のワルツを採り上げたリサイタルが催されました。プログラムはショパン、ラヴェル、リストによるワルツの名曲に加え、ショパンの作品の中でも難曲かつ名曲と言われているバラードが並び、非常に濃密な2時間となっていました。

 中桐さんの演奏は、作品の顔を決める主旋律から密やかに作品を彩る内声まで、1つ1つの音楽のパーツ全てに歌心があり、あたかもピアノの音が語りかけてくるように聴こえます。とりわけそれは、美しい旋律線と重厚な和音の連なりとのコントラストの激しいショパンのバラードで、顕著になっていました。特に印象的だったのがバラードの第2番。この曲はまさに、高音の旋律が静寂にうごめく音楽の中で浮かび上がって来る部分と、激しい音のうねりから低音の旋律が立ち上がって来る部分との対比が特徴となっており、技術的にも大変難しいものとなっています。しかしながら中桐さんが演奏されると、いずれの部分でも旋律がくっきり聴こえ、さらにはそれらの旋律が客席に訴えかけているように感じられました。また、同じくバラードの第3番と第4番では、音楽が別の色に突然変わったり、あるいは徐々に雰囲気を変えたりする時の間合いも絶妙で、会場が心地よい緊張に包まれていました。

 また中桐さんの丁寧な音楽創りは、ショパン以外のプログラムでも存分に活きていました。ラヴェルの《高雅で感傷的なワルツ》は、7つのワルツとエピローグから成っていますが、7つのワルツから紡ぎ出された音のモティーフが、エピローグで1つまた1つと蘇る様相を、聴き手にも明確にわかるように演奏されていました。そしてリストの《ウィーンの夜会》第6番(シューベルトの《ワルツ・カプリス》のパラフレーズ)では、繊細な指裁きで上品ながらも秘めた情熱を感じるワルツを奏でられました。

 そしてフェスティバル全体のテーマでもあるショパンのワルツでは、中桐さんの歌心を存分に感じることが出来ました。ショパンのワルツは、作品番号と創作年にずれがあり、9番〜14番のほうがその前の番号のものよりも先に創られています。中桐さんは、本日9番〜14番のワルツをプログラムの前半で演奏し、ショパンのとりわけ成熟したワルツと言われている6番〜8番を後半で演奏されていましたが、創作年の早いワルツでは勢いのあるリズムやセンチメンタルな旋律線を活かしていたのに対し、創作年が後のワルツではより色気や優雅さを感じるような表現をされていました。

 中桐さんの心のこもった演奏に、会場からは1つ演奏が終わるごとになかなか鳴りやまない拍手が沸き起こり、中桐さんはその度に素敵な笑顔で応じられていました。アンコールはリストの《ラ・カンパネラ》。最後の最後まで続いた熱演に、会場からはますます大きな拍手が揚がりました。中桐さんの演奏をまた聴きたいと強く願った、大変充実したリサイタルでした。

(A. T.)


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